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特別対談

後継者がいなくなっていく業界
左官はもう終わりなのか?

左官工事の技術的進歩改善を図り、左官業の社会的経済的地位の向上発展を目的として設立された「一般社団法人日本左官業組合連合会」。今回は道下組の地元、福岡県で様々な活動を精力的に取り組んでおられる「福岡県左官業組合連合会」平田会長様との対談です。

弊社代表取締役 道下幸二×福岡県左官業組合連合会 会長 平田雅敏様

ストップ!人手不足。
「左官のPR」に注力

道下
30年くらい前まで、ご近所で家を建てる際には壁塗りの現場があり、腕のいい左官職人が壁を塗っていましたよね。ところが最近は左官職人の現場を見る機会も減り、一般の人にとって左官業が身近な存在ではなくなってしまいました。
左官業組合では、左官をより身近に感じてもらうため、様々な形で「左官のPR」を行っておられます。

平田様
私たちの使命は伝統を守りながらも、一人でも多くの方々に左官業の門戸を開くことだと思っています。まずは左官のことを知ってもらい、興味をもって、将来の「担い手の確保・育成」へとつなげていくため、いろいろな事に取り組んでいます。
毎年、実施している福岡国際センターで小学生の高学年を対象にした職業体験イベントでは、左官の歴史と仕事内容について説明を行い、「壁塗り体験」や「土だんごづくり」に挑戦してもらうなど、楽しく遊びながら、左官という仕事への理解を深めています。小学校への出前授業には、けっこうな数の応募があるんですよ。
また、実際の担い手育成ということでは、福岡人材開発センターで、技能検定一級、二級、三級の資格を取得するための準備として、実技試験課題を用いて技術力アップのサポートも行います。

道下
左官はすべて「人」の手作業で完成するもの。「人」が仕事の決め手になる仕事なので、腕のいい職人を育てることが重要です。

平田様
おっしゃる通り、左官業で課題となっているのは人材不足です。
今、左官業界で腕の良い職人はほとんどが65歳以上です。職人の高年齢化で、後継者を育てるための人がいなくなりつつあります。一通りの仕事を覚えるまで10年というように左官職人の育成には非常に時間がかかり、一人前の職人に育て上げる前に、師匠である職人たちが引退してしまっています。

道下
弊社も人材不足という課題に向き合って、積極的に人材育成に努めています。
福岡県には職業系高等学校が何校もあるのですが、そのうち左官科があるのは福岡県立小倉高等技術専門校と田川高等技術専門校のみです。建築科がある福岡高等技術専門校も含め、将来、左官工になる可能性がある学生さんに積極的に関わって、左官という仕事をピーアールしています。
左官業は職人の世界。技術を磨き続けられる本当にやりがいのある仕事です。技術を修得までは時間がかかりますが、できるようになってからは、経験を積めば積むほど表現の仕方や仕上がり具合の完成度が高まってきます。一度身に付つけたスキルは一生、使う事ができます。職業として価値の高い事だと思います。

「左官って、かっこいい」
それが、続くために…

平田様
左官業をもっと若い方に認知していただくためにはやはり見た目が大事です。「あっ、かっこいい仕事なんだ!」という部分を見せるのがポイントだと思いますね。技術的な難しさは、実際に経験してもらわないとわかりませんし、同じように経験を積んでもレベルの差は出てくる。初めから難しい仕事を与えないようにして、若い人たちに「左官の仕事って楽しい」と思ってもらえるような工夫をしなければならないですね。

道下
最近、テレビなどの媒体で左官職人さんが取り上げられる機会が増えてきて、「左官っていいな」と言う人もチラホラでてきました。昔は家が左官屋だから、親が左官職人だから、自分もなるという人がほとんどだったのですが、今は大学を出て左官をしたいとか、他職種から転職してでもなりたいとか、いろいろな人が左官に興味をもつようになり、弊社にも入社を希望されるようになりました。

平田様
かっこいいという憧れをもって入社した若い人が辞めずに、一人前になるまで続き、定着するよう、気をつけておられることはありますか?

道下
やりたいと思う憧れの仕事と、やりたくない仕事とのバランスですね。やりたくない内容でも我慢してしなければならないのが仕事というもの。しかし、そればかりだと、やる気が失せ、モチベーションも下がってしまいます。仕事はあっても、仕事のやりがいはないという状況では、自分は何のために仕事をしているのか?となってしまいます。

平田様
昔の職人は自分で塗り上げた壁を見て喜び、左官技能を養っていました。感動や喜びが技術を高めるエネルギーになるのは確かです。

道下
会社としても皆がやりたいと思うような仕事を増やしていきたいと思います。また、さまざまな材料や技法を勉強し、お客様に提案して、OKを頂くことが次の注文に繋がる。そのような達成感を味わうという良い循環をつくっていきたいと思います。

平田様
道下組さんの仕事は店舗関係が中心なので、かっこいい仕事をしていると思われる機会も多いですよね。

道下
おかげさまで、いろいろな空間デザイナーさんとコラボさせていただく機会が増えてきています。そのチャンスをものにして、結果を残すためにも、私たちからいいプランを提案できるようにしていかなければなりません。
そこで弊社スタッフには多彩な材料に関する経験を積んでもらうため、色々な施設の壁を見に行き、勉強してもらっています。また新しい材料が出てくると、情報・知識として蓄積するだけではなく、実際に触って、自分のものにして、商材となるまで精通してから、お客様に提案します。自分たちの経験値のなかで仕事をするために、経験を100%モノにすることを重要視しています。
経験を積めば積むほど、表現方法や仕上がり具合など、お客様から求められることに対して対応ができるようになる。つまり経験を積むほどに声がかかり、完成度も高まるということですね。 お客さまのご要望をカタチにすることが職人の一番大事な仕事なので、お客様としっかりコミュニケーションをとることも左官の重要な能力になってきますね。

左官業の継続・発展のため
今後、必要なことは?

平田様
施工に日数がかかる、費用が高くなるなどという理由から、重いモルタルがだんだん使われなくなってきています。道下組さんが扱われているようなアーティスティックな材料を活用する仕上げ現場も増えてきているので、体力差で仕事に差が出てしまう女性の左官でも十分に働いていける状況になっていますね。

道下
昔と違って、左官工に求められていることが変わってきていますよね。弊社はお客様にテナントさんや店舗さんが多いため、他にない仕上げ法を求められることもあり、多様な視点が必要となってきています。そういう理由からでも、女性ならではの色彩感覚や感性を活用できる職業であると思います。

平田様
建築の仕事のなかでも左官工は多能工(マルチスキル)だと思います。いろいろな知識を吸収してフレキシブルに動ける人材が必要になってくる。頑張れば、確実に技術が身に付く世界ですし、アンテナを張って、研究、勉強していくことで、左官の事業フィールドも広がっていくと思います。
その働きに見合う単価を、ゼネコンさん、工務店さん、施主さんがちゃんと納得して頂ける環境づくりを、みんなで努力をしなければなりません。情報を共有して、技術や能力にふさわしい対価を支払う仕組みを全国共通でやっていければ、業界としてももっと伸びていくと思いますね。
色々な製造業、建築業で団塊の世代の人がいなくなっていくのも間近。日本の若者に左官の伝統技術を継承するためにも、左官職人が「生涯にわたり、豊かに生活していける」仕組みづくりを構築しなければならないと思います。

道下
職人育成とは「人」を育てることでもあります。技術だけでなく、話すこと、聞くこと、伝えることなど、人間としての育成にも力を入れていきたいと思います。社会に対して左官として貢献できることも追及しながら、世の中のニーズに応えられる人材を育てていくことが道下組としての社会の役割であると考えています。